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プラナリアの片想い

プラナリアという生き物がいる。

身体を2つに分断すると、いずれの断片も成体に戻るという不思議な生き物。中学校あたりの理科の教科書に載っていたと思うが、ナマで見た記憶はない。
ある科学の研究によれば、プラナリアを胴体の真ん中あたりで真っ二つに切り分けたとき、下半分から再生した成体も、元の成体の記憶を持っているという。
だいたい、魔法のポケットの中のビスケットを地で行くような生き物がいるだけでも不思議なのに、記憶までが、それも下半身にコピーされてしまうなどとは俄かには信じがたい。

仕事が一段落ついて椅子から立ち上がると、両手をあてがった腰を右回り左回りと軽く回転させたオレは、唐突に思い立って骨盤上縁にあてた両手を脊柱に向けてグイグイとしぼっていった。ウエストが首の太さくらいまでに絞られてくると、上半身が倒れないようにバランスをとるのに多少気を使ったが、それでも両手に入れた力は緩めずに身体の中心を目指した。
いちばん苦労しそうだと思っていた脊柱が、胸椎と腰椎の継ぎ目からあっけなく分断されると、自分が達磨落としになったような変な気分になった。しばらくすると上半身と下半身それぞれの切断面がモゾモゾとうごめきだして、いよいよ再生が始まる。
気がつくとオレの上半身も下半身も床に横倒しになっており、コンクリートミキサー車のタンクが回転するくらいのスピードで欠損状態の身体が再生していくのがわかる。

当然のことながら再生されるのは身体だけで、着ていた服までがデュプリケートされるという具合にはならない。したがって、下半身から再生した上半身からはオレの大胸筋や腹筋が以外と鍛えられていることがわかってしまうし、上半身から再生するスッポンポンの下半身は、その再生過程からして人様にはお目に掛けられないのである。

そんなこんなで二時間ほどすると、とりあえずは見た目だけは二人の俺が誕生するわけだが、骨格や筋肉が重力に対抗できるまでにはさらに二時間ほどを要する。カニであればソフトシェル・クラブの状態であり、この状態の時に外敵に襲われると抵抗できないのでとても危険なのであるが、一応ヒトなので周りからいやな顔をされる程度で済む。

上半身から再生したオレと、下半身から再生したオレは、一卵性双生児と同様に遺伝学的には全く同じ生き物で、そのうえそれまでのオレの記憶を共有している。

高校のとき同じ学年にいた双子の増田兄弟は、兄は理系のトップで弟は文系のトップであり、まったく同じ遺伝子を持っていても頭の仕組みは微妙に違うという、学習の後天性とでもいうべき事象の生き証人であったが、分裂したオレは同じ記憶を共有している関係上、新しい思考のベースがいっしょということで、しばらくの間はお互いが考えていることや行動の先が読めるところが面白かったりする。
またその一方で、本音と建前というような感情や思考の履歴も共有しているため、あのとき本当はどう考えていたのかということを問いかけたとしても、帰ってくる答えはまったくの予想通りで、そういう意味では何の役にも立たない。

自分が二人いるということは、仕事などのダブルブッキング役立つと一瞬思いがちだが、それまでの経験は共有していても、あらたな経験は共有しないため、楽しみが二倍に増えるということはない。別々の女性とお付き合いして労せず二股掛けという不埒な考えが一瞬脳裏をよぎったが、そういうわけなので、まったく別の男が自分の好きな女と付き合っているという、不愉快極まりない状況が現出するだけで、そんな生き方にはメリットなど感じないな・・・と結論を出したところで目が覚める。

プラナリアにとっても、いい迷惑だったりするのかもしれない。
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